プロフェッショナル列伝 第1話

多様化する“人”に関する悩み

企業にとって社員とは、何物にも代えがたい大切な財産だ。
しかし近年、職場環境や家庭環境など様々な要素がストレスとなり、身体の健康はもちろんのこと心の病を抱え、仕事に本来の力を発揮できない社員が増加している。

企業に対して「福利厚生サービス」の営業を行っている伊丹は、こうした世の中の変化に注目していた。「これから福利厚生の在り方は変化し、企業のニーズも多様化していくはず」。
入社後3年間は主にパッケージ商品を中小企業向けに提案営業をしてきた。利益率が高く運用においても既存のレール上に乗せられる商品のためコンスタントに成績を上げてきたが、「それだけでは顧客満足にならないケースも増えるのではないだろうか」、そう考えるようになっていた。予感させてくれたのは、入社4年目にはじめてアポイントが取れた世界的化学メーカーだった。

もちろん大手企業はそう簡単に取引が始まるわけではなく、伊丹はチャンスの訪れを待ちながら訪問先にとって有益と思われる情報や人事関係の専門書から得た最新情報を定期的に届けるなどして人事担当者とのパイプをつないでいた。研究職・技術職など優秀な社員を大量に抱えるこの化学メーカーは、社員という財産を何よりも大切に考えており、伊丹が持参する情報に興味を示してくれていた。

メンタルというデリケートな悩み

「当社のメンタルヘルス対策について、伊丹さんはどんな提案をしてくれますか?」

初アポイントから1年。人事担当者がはじめて具体的キーワードを出し、伊丹に課題を突き付けた。詳しく聞いてみると社内の人間関係のみならず、育児や介護の問題など家庭生活での悩みがストレスとなり欠勤や退職に至るケースが増えているのだという。

また過労死やうつによる自殺者などの問題も他人事ではないと考えているようで、伊丹は根本的解決のお手伝いができるようなインパクトある提案をしなければ期待に応えることはできないと考えるようになっていた。

「これは大きな仕事になるな」。

さっそく会社に持ち帰った伊丹は、自社の持つメンタルヘルスに関するコンテンツを洗い出す他、専門業者を調べて連絡を取りプログラム内容を調査していった。

そして提案のポイントを“相談窓口の設置”と“実際のケアに繋がるコンテンツの提供”とした伊丹は、外部との提携も含めたこれまで自社になかったオリジナル商品を創り出し、化学メーカーに提案した。商品名は『総合EAP(Employee Assistance Program・従業員援助プログラム』。「産業医(会社で従業員が健康で快適な環境のもとで仕事が行えるよう、専門的立場から指導・助言を行う医師のこと)の導入や電話による相談のみが一般的な中、そこで終わらずに解決に繋がるコンテンツの紹介までセットにするのです」。

例えば育児に悩んでいる社員は、まず産業医や心理カウンセラーによるカウンセリングを受ける。そこでのアドバイスや自分のチョイスを元に改善に繋がるサービスを利用していく。子供を育児施設に預け、のんびり宿泊を満喫できるようなプランや、医師によるメンタルケアが必要な方に、住まいの近隣にある医療施設を紹介、さらに予約まで代行し手間いらずのサービスを用意するなど、状況に応じて様々な対応をしているという。

「私たちが確認し合ったイメージをうまく形にしてくれましたね」。
緊張のプレゼンテーションの結果、提案した先の企業担当が発した言葉に、伊丹はホッと胸をなでおろした。